株式投資で、会社の株価と業績は重要な情報ですが、両者は似て非なるものです。会計は「夢」を語らない堅実さがあるからこそ、投資情報として重宝されます。
「夢」の大きさを測る時価総額、「現実」を測る会計
時価総額とは、株価×株数で表したものです。そして、株価は時々刻々と変動していきます。株価は買いたいと思う人&売りたいと思う人が「いくら買いたいか(いくらで売りたいか)」によって決まります。
会社が今後伸びると投資家が思えば株価は上がりますし、落ちると思えば株価は下がります。重要なのは、実際に業績が伸びているかどうかではなく、伸びると「思っているかどうか」です。期待が株価を左右します。
テスラがトヨタより時価総額が高いのは、イーロン・マスクのカリスマ性やEVへシフトしていくことへの期待が高いからでしょう。テスラに対する「期待」が時価総額を押し上げています。
対して、会計が表す業績には、「期待」が入り込む余地はありません。売上、経費の差し引きで利益が決まり、経営者がイーロン・マスクだろうがその辺の大学生だろうが変動はありません。
業績だけを見ると、売上はトヨタの方が圧倒的に高いですし、利益も肉薄しているとはいえ、トヨタの方が高いです。足元の業績だけを見て儲かっているかどうかを考えるのであれば、トヨタに軍配があがります。
時価総額と会計の業績は、ファイナンスという領域において似ていますが、表している情報は似て非なるものです。
どちらの情報が優れているというわけではなく、それぞれの役割が異なります。時価総額はその時の「期待」や「夢」の大きさを表し、会計はそういった「期待」や「夢」を排除した現実を見るために使われます。
地に足のついた情報だからこそ会計は重宝される
経営者が壮大な夢やビジョンを語っていても、本当にその会社が良い会社なのかどうかはわかりません。「良い会社」が何なのかは人によって解釈が分かれると思いますが、原則としては「儲かっている会社」ではないかと思います。
デイトレードのように株を安く買って高く売ることが目的の場合は会社の業績は二の次になると思いますが、長期保有による配当が目的であれば、会社への「期待」や「夢」だけでなく、実際に儲かっているかどうかも重要な情報です。
会計はそういった夢に惑わされない、地に足の着いた情報だからこそ情報として価値があります。
最近では会計にも夢を反映させるような経理(資産除去債務やのれんの減損など)が増えてきていますが、会計の原則は、夢を語らないことにあると思います。
「会計思考」というと、決算書をいろいろな指標を使って分析したり、簿記に強くなることだと思われがちですが、本当の意味での「会計思考」とは、口の上手い人が並べる実現するかもよくわからない「夢」に惑わされない「現実」を見据える思考を持つことではないかと思います。