議事録を残す、作業の内容を文書で取っておく。そういった「言質を書面で残しておく」ような形式的な仕事が、これからもずっと増えていくように思います。重要な仕事ですが、魅力的な仕事ではないでしょう。
信託型ストック・オプションを給与課税とする国税庁の見解
8月27日の日経で、信託型ストック・オプションの税務処理を巡り、国を相手に「訴訟を検討している」という記事が掲載されていました。
信託型ストック・オプションは、これまで権利行使時には課税されず、権利行使で取得した株式を売却したときに譲渡所得でのみ課税されるという前提で、上場前のベンチャー企業を中心に導入されていました。ですが、今年になって国税庁から、権利行使時にも給与所得として課税されるという見解が公表され、この見解が波紋を呼んでいます。
社員にも企業にも大きな負担増が懸念されることから、これからもこの問題は尾を引くと思います。
国税庁としては、従来から権利行使時に給与課税されるという見解は変えていないとのことですが、日経にあるような訴訟を検討している企業があるということは、この見解に納得していない企業がそれだけあるということでしょう。
企業と国税庁とで異なる見解
信託型ストック・オプションの考案者は、国税局にも問い合わせを行い、「オーナーが信託に資金を拠出するタイプのもので、時価に基づいて権利行使価格であれば譲渡所得課税のみが生じる」旨の回答を得たとのことですが、実際の納税義務者としての問い合わせではないため文書での回答は残っていません。
このような双方の見解が相違している中で、仮定の話として、もし国税庁が問い合わせに対して文書で回答していたらどうなっていたのかという想像をしてしまいます(ないとは思いますが)。
信託型ストック・オプションを導入していた企業の担当者は、今回の件でかなり対応に追われているのではないかと思います。完全な想像ですが、事前にリスクは検討したのか、信託銀行や顧問税理士には確認したのか、確認した結果は文書で残していたのかといった検証もしているかもしれません。そして、今後はこんな目にあわないように、確認した証跡はしっかり文書に残すことを徹底することになるのではないでしょうか。
重要なことだとは思いますが、これはこれで手間が増えそうです。
証跡をいかに残すか(残さないか)をめぐる仕事がこれからももっと増えるかもしれない
本件に限らず、後で言った言わないの議論になってトラブルにならないように、口頭だけでなく文書にも記録を残してコミュニケーションの齟齬が生じないようにすることは重要とされています。
確かにその通りだと思いますし、私も実践しています。
しかし、「コミュニケーションの齟齬を回避する」という本来の趣旨から外れ、「証跡を残す」という形式だけが求められ、いたずらに何でもかんでも証跡を残すという動きになってしまうのもあまり良い動きとは思えません。
「コミュニケーションを円滑にする」という目的のための手段として証跡を残すことが求められているのに、その手段が目的となって証跡だけを残そうとする仕事はかなりつまらないでしょう。
信託型ストック・オプションを巡る国税と企業の動きを見ていると、今後そういった過度なエビデンス主義が今後さらに強まるような気がしています。